生産技術上がりの技術ライター、桑原と申します。
自動車部品メーカーで12年ほど、ECUやパワーモジュールの接着・封止工程を担当していました。
若手のころ、塗布量が安定しない案件で3週間溶かしたことがあります。
装置のパラメータを片っ端からいじり、最後はメーカーの技術の方まで呼びました。
それでも直りませんでした。
原因は、資材倉庫で3ヶ月寝ていたワークのほうにありました。
塗布不良が出ると、まず装置を疑いたくなります。
目の前で動いていて、いじれる対象がそれしかないからです。
ただ私の実感では、原因が装置そのものにあったケースは半分もありません。
たいていは装置より手前、つまり液とワークの側にあります。
同じ設定なのに、出る量が変わる
朝と夕方で吐出量が違う。
シリンジの残りが減ってくると量が落ちる。
こうした症状は装置の異常に見えますが、多くは液の状態が変わっただけです。
代表的なものを整理しておきます。
| 症状 | 装置より手前で疑うところ | 確認の仕方 |
|---|---|---|
| 時間帯で吐出量が変わる | 液温の変化による粘度変動 | 室温ではなく液そのものの温度を朝夕で実測 |
| 残量が減ると量が落ちる | 液面高さの低下(水頭差) | 満タン時と残量少で吐出量を比較する |
| ときどき出ない、量が飛ぶ | 気泡の混入 | 充填時・解凍時の扱いまでさかのぼる |
| 始業直後だけ量が違う | 捨て打ちの省略 | 立ち上がりと定常時を分けて測る |
ここで押さえておきたいのが、装置の吐出方式によって粘度変化への強さが違う点です。
エアシリンジ方式は、空気圧をかける「時間」で吐出量を決めています。
液の粘度が変われば、同じ時間でも出てくる量は変わります。
一方、容積計量方式はピストンが押し出した体積で量が決まるので、粘度が動いても量はぶれにくい。
自分が担当している機械がどちらの原理で量を決めているかは、必ず押さえておくべきです。
吐出方式ごとの違いはディスペンサという装置の仕組みを解説したページに図付きでまとまっています。
ワークは、届いた日から変化している
もうひとつの盲点がワーク側です。
接着技術の第一人者である原賀康介氏の解説によれば、被着材の表面張力は一般に36〜38mN/m以上あれば凝集破壊率が高く、高品質な接着ができるとされています。
ところがニッケルめっき部品の例では、約3ヶ月の保管で表面張力が大きく下がっていました。
詳しくは接着工程で品質を確保するための注意点にまとまっています。
装置は何も変えていない。
液も同じロット。
それなのに今日だけ不良が出る、という日の犯人はたいていこれです。
公開されている不良事例を見ても、装置が原因だったという話はあまり出てきません。
日邦産業が公開している剥離不良の解析事例では、原因は次のようなものでした。
- 部材表面から多量の有機シリコーンが検出された
- 外注先の炉で昇温速度が異なり、接着剤が硬化不足だった
- 2液混合後の使用時間の管理が曖昧だった
- 接着剤層が50μm以下と薄すぎた
4件ともディスペンサ本体の性能の話ではありません。
上流の汚染、熱の管理、材料の扱いです。
平均ではなく、ばらつきを見る
私は塗布量を評価するとき、平均値だけを見ることはしません。
n数を確保して標準偏差まで出し、ばらつきがどう動いているかを見ます。
原賀氏が日本接着学会誌に発表した総説には、信頼性の高い接着を実現するには接着強度の変動係数(標準偏差/平均値)が0.15以下、望ましくは0.10以下である必要があり、0.2以上になるともはや信頼性を論じることはできない、と書かれています。
そして表面処理の目的について、単に平均強度を向上させるためではなく、凝集破壊率を向上させて変動係数を小さくするためだ、とも指摘しています。
つまり手前の工程は、平均値ではなくばらつきを支配しているわけです。
平均が規格ど真ん中でも、ばらつきが大きければ不良は出ます。
ばらつきの出方が分かると、原因はかなり絞れます。
- ロットが変わったタイミングで動く場合は、材料かワークの入荷ロット
- 時間帯で動く場合は、液温か環境
- 順番に関係なくランダムに飛ぶ場合は、気泡か装置の再現性
装置を疑うのは、この切り分けを一通りやってからで遅くありません。
まとめ
塗布不良の切り分けで大事なことは、そう多くありません。
- 液の温度、残量、気泡という「液の状態」を先に確認する
- ワークの表面は保管中に変化していると考える
- 平均ではなく標準偏差を見て、ばらつきの動き方から原因を絞る
そのうえで装置を見直すなら、パラメータではなく吐出方式そのものが液に合っているかを疑ってください。
粘度が動く液を時間制御で吐出しているなら、それは設定の問題ではなく方式の問題です。
3週間溶かした昔の私に一言だけ伝えられるなら、「装置の前に、液の温度を測れ」と言うと思います。