「プラスチックってリサイクルされてるんでしょ?」と聞かれることがあります。たしかに、日本の有効利用率は89%という数字が出ています。でも、この数字の中身を知ると、ちょっと印象が変わるかもしれません。
フリーライターの長谷川拓也です。環境工学を大学で学んだあと、NGOで廃棄物問題に関わり、今は北関東を拠点にものづくりや環境ビジネスの現場を取材しています。年間30本以上の工場見学レポートを書いていて、リサイクルの現場には何度も足を運んできました。
この記事では、プラスチックリサイクルの3つの方法をざっくり整理しつつ、日本の現状や課題について、現場で見てきたことも交えてお伝えします。
目次
プラスチックリサイクルには3つの種類がある
プラスチックのリサイクル方法は大きく分けて3つあります。マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル、サーマルリサイクル。名前だけ聞くとややこしいですが、やっていることはそれぞれまったく違います。
ざっくり言えば、「砕いて溶かして再利用する」「化学的に分解して原料に戻す」「燃やして熱を回収する」。この3つです。
マテリアルリサイクル:砕いて溶かしてもう一度使う
マテリアルリサイクルは、廃プラスチックを物理的に加工して、もう一度プラスチック製品の原料にする方法です。「モノからモノへ」と表現されることもあります。
具体的な流れはこうです。
- 回収された廃プラスチックを種類ごとに選別する
- 粉砕機で細かく砕いてフレーク状にする
- 洗浄して汚れや異物を取り除く
- 高温で溶かして押出機にかける
- 冷却して3〜5mm程度の粒状に切断する
この粒状のものが「再生ペレット」と呼ばれる再生原料です。再生ペレットからは、プラスチックトレーや容器、繊維製品など、さまざまな製品が作られています。
ペットボトルから衣類が作られるというのは有名な話ですが、あれもマテリアルリサイクルの一例です。環境負荷の面では、新しい原料を使わずに済むぶん、CO2排出量を大幅に減らせます。3つの方法のなかでは最もエコな選択肢と言っていい。
ただし、条件があります。同じ種類のプラスチックがきれいに分別されていないと品質が落ちます。汚れがひどいものや異素材が混ざったものは、この方法では対応しきれません。
ちなみにマテリアルリサイクルには2つのタイプがあります。同じ種類の製品に戻す「水平リサイクル」と、元の製品より品質が下がるものに加工する「カスケードリサイクル」です。ペットボトルからペットボトルを作るのは水平リサイクル。ペットボトルからフリースの繊維を作るのはカスケードリサイクル。水平リサイクルのほうが理想的ですが、品質の劣化を抑える技術が求められるため、実際にはカスケードリサイクルのほうが多いのが現状です。
ケミカルリサイクル:化学の力で原料レベルに戻す
ケミカルリサイクルは、プラスチックを化学的に分解して、元の原料やガス、油などに変換する方法です。
マテリアルリサイクルが「形を変えて再利用する」のに対して、ケミカルリサイクルは「分子レベルまで戻す」イメージ。高温で熱分解して合成ガスや分解油を取り出したり、化学反応で元のモノマー(原料物質)に戻したりします。
この方法の強みは、汚れや異物が多少混ざっていても対応できること。種類の違うプラスチックが混在していてもリサイクルできるため、マテリアルリサイクルでは処理しにくい廃プラスチックの受け皿になります。
最近注目されているのが「ボトルtoボトル」と呼ばれる技術で、使用済みペットボトルを化学的に分解して、再びペットボトルの原料に戻すことが可能になっています。
一方で、設備の導入コストが高く、処理にもエネルギーを多く使います。日本全体のプラスチックリサイクルに占める割合はわずか3%程度。技術としては優れていても、まだ普及が進んでいないのが現状です。
サーマルリサイクル:燃やして熱エネルギーを回収する
サーマルリサイクルは、廃プラスチックを燃焼させて、発生する熱エネルギーを回収・利用する方法です。ごみ焼却施設で発電したり、温水を供給したりするのがこれにあたります。
日本ではこの方法が圧倒的に多く、プラスチックリサイクル全体の約62%を占めています。分別が不十分でも、汚れていても処理できるため、効率の面では優れています。プラスチックはもともと石油から作られているので、燃やせば高い熱量が得られる。ごみ焼却施設の発電効率を上げるために、あえてプラスチックを混ぜて燃やしているケースもあります。
ただし、海外ではサーマルリサイクルを「リサイクル」とは認めない国が多い。EUの基準では、プラスチックを燃やしてエネルギーを回収することは「エネルギー回収」であって「リサイクル」ではないという立場です。ここが日本と海外でリサイクル率の数字が大きく食い違う原因になっています。
3つのリサイクル方法を比較してみた
それぞれの特徴を表にまとめます。
| 項目 | マテリアルリサイクル | ケミカルリサイクル | サーマルリサイクル |
|---|---|---|---|
| 処理方法 | 物理的に再加工 | 化学的に分解 | 燃焼して熱回収 |
| 再生物 | 再生ペレット・製品 | 原料・ガス・油 | 熱エネルギー・電力 |
| 品質への要求 | 高い(分別・洗浄が必要) | 中程度(多少の混在OK) | 低い(混合でも処理可) |
| 環境負荷 | 低い | 中程度 | 高い |
| コスト | 中程度 | 高い | 低い |
| 日本での割合 | 約22% | 約3% | 約62% |
こうして並べると、環境負荷が低い方法ほど分別の手間やコストがかかり、手軽な方法ほど環境負荷が高いという構図が見えてきます。理想と現実のバランスをどう取るか。これがプラスチックリサイクルの根本的な問題です。
日本のプラスチックリサイクルの現状
有効利用率89%の中身
一般社団法人プラスチック循環利用協会の発表によると、2023年の廃プラスチック総排出量は769万トン。そのうち89%にあたる688万トンが有効利用されています。
数字だけ見れば優秀に思えます。でも内訳を見ると景色が変わる。
- マテリアルリサイクル:約22%
- ケミカルリサイクル:約3%
- サーマルリサイクル:約62%
有効利用率の大半をサーマルリサイクルが占めています。国際基準で「リサイクル」と認められるマテリアルリサイクルとケミカルリサイクルを合わせると、実質的なリサイクル率は25%前後。EUの35%と比べても低い数字です。
日本はリサイクル先進国だと思っている方も多いかもしれませんが、実態は「燃やして熱を回収しているだけ」という側面がかなり大きい。ここは知っておいたほうがいい事実です。
プラスチック資源循環促進法の施行
2022年4月、プラスチック資源循環促進法(プラ新法)が施行されました。この法律は、プラスチック製品の設計段階から廃棄・リサイクルまで、ライフサイクル全体で資源循環を促進することを目的としています。
環境省のプラスチック資源循環法ページでは、「3R+Renewable」(リデュース・リユース・リサイクル+再生可能資源への転換)という基本方針が掲げられています。
背景には、海洋プラスチック汚染の深刻化と、中国をはじめとするアジア諸国が廃プラスチックの輸入を規制し始めたことがあります。これまで海外に輸出していた廃プラスチックを、国内で処理する体制を整えなければならない。法律がなくても迫られていた課題に、ようやく法的な枠組みがついた格好です。
再生ペレットができるまでの工程
マテリアルリサイクルの中核となるのが、再生ペレットの製造です。工場見学で何度か見てきましたが、やっていることは意外とシンプルです。
- 廃プラスチックを回収・選別する
- 粉砕機で細かく砕く
- 水で洗浄し、比重差を利用して異素材を分離する
- 脱水・乾燥する
- 200〜220℃の高温で溶融し、押出機でひも状に押し出す
- 冷水で冷やして固め、ペレタイザーで3〜5mmの粒状にカットする
完成した再生ペレットは、新品のプラスチック原料(バージンペレット)と同じように成形機に投入して、さまざまな製品に加工できます。工場で見ていると、ひも状に押し出された溶融プラスチックが冷水槽を通って固まり、カッターでパチパチと小さな粒に切断されていく。あの工程は何度見ても面白い。
ただし、品質の安定が難しい。原料となる廃プラスチックの状態はバラバラですし、異物の混入を完全に防ぐのは容易ではありません。溶けきらなかった不純物はスクリーンメッシュと呼ばれるフィルターで除去しますが、フィルターの目の細かさや交換頻度が品質を左右します。
50種類以上のプラスチックに対応して再生ペレットを製造している企業もあり、たとえば群馬県太田市に拠点を置く日本保利化成株式会社の取り組みについてまとめた記事を読むと、多品種対応の技術力がどれほど求められるかがよく分かります。扱える樹脂の種類が多いほど、選別や加工の難易度は上がりますが、そのぶん受け入れられる廃プラスチックの幅も広がるわけです。
プラスチックリサイクルが抱える課題
コストの壁
リサイクルには当然コストがかかります。特にマテリアルリサイクルやケミカルリサイクルは、分別・洗浄・加工の各工程で人手と設備が必要です。再生ペレットの価格がバージンペレットと同等かそれ以上になってしまうと、わざわざ再生品を選ぶ理由がなくなります。
原油価格が下がるとバージンペレットが安くなり、再生品の価格競争力が落ちる。逆に原油価格が上がれば再生品の需要が伸びる。リサイクル事業が原油相場に振り回されるという、なんとも不安定な構造があります。
分別の精度
日本の家庭ごみの分別ルールは自治体によってバラバラです。「プラスチックごみ」としてまとめて出す自治体もあれば、素材ごとに細かく分ける自治体もある。分別が不十分なまま集められた廃プラスチックは、マテリアルリサイクルに回しにくいため、結局サーマルリサイクル行きになりがちです。
引っ越しを経験した方なら分かると思いますが、前の自治体では「燃えるごみ」だったものが、新しい自治体では「プラスチック資源」になっていたりする。消費者側が混乱するのも無理はありません。分別ルールの統一は簡単ではありませんが、少なくとも容器に印字されている識別マーク(プラマーク)を意識するだけでも、リサイクルに回せる割合は変わってきます。
技術革新への期待
ケミカルリサイクルの技術が進めば、分別精度に依存しないリサイクルが可能になります。実際に、国内外で大規模なケミカルリサイクルプラントの建設計画が進んでいます。ただし、実用化とコスト低減にはまだ時間がかかる。技術の進歩を待つだけでなく、今ある方法でできることを積み上げていく姿勢が大事です。
まとめ
プラスチックリサイクルの3つの方法を整理してきました。
マテリアルリサイクルが最も環境にやさしいけれど、分別の手間とコストがかかる。ケミカルリサイクルは柔軟性があるけれど、まだ普及途上。サーマルリサイクルは現実的な処理方法として機能しているけれど、「リサイクル」と呼んでいいのかは議論がある。
日本の有効利用率89%という数字の裏には、こうした複雑な事情が隠れています。大事なのは数字の大小ではなく、中身を知ったうえで「じゃあ自分に何ができるか」を考えること。ゴミの分別を丁寧にやるだけでも、マテリアルリサイクルに回せるプラスチックは確実に増えます。
工場を取材していて思うのは、現場の技術と努力は確実に進んでいるということ。あとは、それを支える仕組みと消費者の意識がどこまで追いつけるか。そこがこれからの勝負だと感じています。